ジャポニスムハイステージは、ブランドの中でも、デザイナーがその思いを追求し、徹底的に拘りを追求した最高峰のライン。今回、現在制作中であるハイステージシリーズ第5弾となるJN-1005についての製作秘話を、発表に先駆け一足先にお送りすることとなりました。
Vol.01は、メガネを量産製造するにあたって重要なポジションであり、普段からお世話になっているモデラーさんにインタビューしました。モデラーさんから見たJN-1005について、モデラー・佐々木氏と弊社デザイナーとの対談形式にてお送りいたします。
※モデラーとは、デザイナーの描いたスケッチをもとに立体モデルを作り、それをどの様な行程で制作していくのか、現場を指揮していく、メガネ作りにおいて重要なポジションです。
佐々木さん:
これは単なる満足度という話ではなく、こうしてジャポニスムの難易度の高いモデルのプロトを作ることで、次への考え方、作り方が見えてきますし、新しい気づきから結果的に全体の工程技術のレベルを上げることができるんです。そうした点も考えると、新しい何かを求めて高みを目指すということは、モノづくりにとっての必然的なアプローチだと思えるんです。
デザイナー:
日々仕上がっていくプロトを見ていても思いますが、ラインが自然に流れているように見えるのも、佐々木さんや関わってくださった方々が苦労し最善を尽くして実現可能となったもの。これはとてつもない努力を重ねたうえに生まれた、無駄のないシンプルさと美しさです。シンプルなデザインとは、決して情報を簡素化していく作業ではなく、その形が必然的に生まれていくような、ひとつの極みを形にするクリエイティブな作業であると思うのです。
佐々木さん:
面やラインを繋げる作業は簡単に見えますが、実はすごく難しくて、下手をすると人工的な気持ち悪さが残ってしまう。それではモデラーとして許せないわけです。これは、3Dで考えるからこそ生まれる視点でもあるのですが、2Dで考えているだけだと、どうしてもそういうデザインになってしまいます。
例えば、僕はその判断するために、一本のハイライトが途切れることなく、その造形の中に通るか通らないかを見ています。特にジャポニスムのモデルは、フロントからテンプルエンドまでの「流れ」がデザインされているものが多いので、この作業は非常に大事ですし、しっかりハイライトを通してあげないと、その気持ち悪さというものが顕著に現れます。身の回りの商品でもそうですが、光がどう通っているかを考えながら見ると面白いですよ。
デザイナー:
我々もよく髪の毛一本分の調整までしているというのですが、本当に人の目は精度が高いので、ごまかしがききません。それを知らない人は大げさだと笑うかもしれませんが、そのぐらい微妙なところまで徹底しています。今おっしゃったハイライトの話もまさにそうでして、そうしたところまでのこだわりが間違いなく結果として全体に影響しますし、商品のオーラとして立ち上がっていくのです。
佐々木さん:
本当、そうですね。0.1mmの違いでも人間の目はごまかせません。「よくごまかしたねー」と言わることもありますが、そう言われた時点でごまかせていないということになりますから、ある意味では、まったく人に気がつかれないレベルまで仕上げることこそ究極の目標と言えるのではないしょうか。知られたいけど知られたくない、というような複雑な思いでもあります(笑)。
デザイナー:
デザインされたものといえば、デザイナーの作品のようにだけ思われがちですが、佐々木さんを始めとする、ご協力いただいた他のメーカーの方々とアンサンブルを組むような感覚の中、深い信頼関係をベースとした鯖江のものづくりがあるからこそ生まれた作品なんですよね。
佐々木さん:
それには、あくまでも、良い曲を書いてくれることが、そもそも重要です。こちらは作曲家から編曲を頼まれるようなもの。良い作品が届かなければ、私たちにはどうしようもありません。
そしてやはり物作りが好きで、それでなりわいを立てているわけです。こういう立場、自分がやりたいことを見つけているということは幸せですよね。難しければいいとはいいませんが、難しければ難しいほど、プロトが出来上がったときの喜びと感動が自分の中からも湧いて出ます。
お客様から、すごい、嬉しい、ありがとう、単純にいえばそうした言葉を聞きたいだけなのかもしれません。それが物作りの作り手の立場として欲しいものなんですよね。もちろんこれはビジネスなのですけれども、相手の魂を揺さぶれるものを作り続けれるのであれば、それが一番の幸せということだと思います。
デザイナー:
そうですね、そういう気持ち、そこを共感しながら物作りを進めていけるのは、こちらとしても本当に幸せな思いです。今後とも難しいこともいうとは思いますが、引き続き宜しくお願いします。
JN-1005のプロトは、まず、フレームをバラバラのパーツに分解し、それを図面に起こすところから始められました。これは、プロトを作るための材料が、量産と違い8ミリから6ミリに圧延された板材しかないためです。
元となる板材のサイズはこの程度。量産では、棒状やブロック状の金属を、切削やプレスをしたりと様々な加工をすることで使うことができますが、プロト一つを作るために治具やプレス型を作ることはコスト的に不可能なので、ここから手作業で仕上げていきます。
分解するのも、ただバラバラにしているわけではありません。材料となる板材には形状とサイズ的な制限があるため、フレームのどの部分が材料の寸法に収まるかを一箇所ずつ見定めていきます。特に、JN-1005は立体的で奥行きがあるデザインのため、正面だけでなく上面からの収まりも3次元的にしっかり考慮しなければなりません。
JN-1005のプロトは、フロントだけで7つものピースをロー付けでつなぎ合わせています。モデラー歴20年の佐々木さんでも、ここまで複雑にピースを分けてパズルのような作り方をしたのは初めてだとか。
実は、JN-1001のプロトを作ってくださったのも、JN-1005のモデラーである佐々木さんでした。「あのプロトも大変だった」とおっしゃる佐々木さんですが、JN-1001の中央部分の金属の硬いイメージから、サイドにかけて徐々に柔らかくなる雰囲気を図面から感じ取り、デザイナーの思いを忠実に反映させたプロトを仕上げてくださいました。
それはジャポニスムハイステージのコンセプトにある“雰囲気”を作り出す上で、必要不可欠な技術でありもっとも重要な要素と言っても過言ではありません。JN-1001とJN-1005のデザインは対極的なものですが、いずれも「何か良い、なんとなく良い」という日本人が持つ独特で曖昧な感覚を体現しています。まさにJN-1005は、そんなハイステージのコンセプトに原点回帰をし、コンセプトを継承しているモデルです。